第1の壁:査定額と期待のギャップ
家を売るかどうかを真剣に考え始めたとき、最初に向き合うことになるのが「いったいいくらで売れるのか?」という疑問でした。
ネットで調べてみると、不動産の一括査定サービスがいくつも見つかります。とにかく現状を把握しなければ始まらないと思い、私もすぐに4社へ査定を依頼しました。大手不動産会社が2社、地場の中小不動産会社が2社という構成で、なるべく偏りなく見積もってもらえるようにしました。
そして数日後、届いた査定額を見て最初に感じたのは「えっ、意外と高いかも?」という意外性でした。
もちろん、「高額査定!」というような話ではありません。あくまで自分が事前に調べていた相場感と比べて、「思っていたよりも高い」という程度。ただそれでも、数字として目の前に提示されると、「ひょっとしたら、この価格で売れる可能性もあるのでは…?」という一筋の希望が湧いてきました。

提示された査定価格の中には、住宅ローンの残債をギリギリ返しきれるラインのものもありました。
「売却してローン完済」──それが現実になるかもしれない、と思うと前向きな気持ちになれた反面、「でも本当にこの価格で売れるのか?」という疑念がすぐに顔を出します。仮にこの価格で市場に出しても、買い手が現れなかったら?値下げ交渉されたら?そこからローンだけが残ったらどうなるんだ…?と、思考はすぐに悲観的なシナリオに向かってしまいました。
この時期は、不安と希望の波に何度も飲まれたような感覚がありました。
査定額が出たからといってすぐに売却に踏み切れるほど、精神的に割り切れるものではなかったのです。
また、査定を通じて印象的だったのは、会社ごとの対応の違いです。
大手の不動産会社は、提示する価格もかなり現実的で、説明も慎重。担当者の動きも全体的にゆっくりしていて、「こちらから急かさないと何も進まないのでは…?」と感じることもありました。
一方、地場の中小不動産会社の担当者は、連絡のスピードも早く、提案内容も積極的。ある会社では「仲介手数料を半額にします」と言われ、具体的な販売戦略についてもすぐに資料を出してくれました。勢いのある対応に「この会社に任せたら早く売れるのでは…?」と思わされるほどでした。
最終的には、このスピード感と提案力を評価して、中小の不動産会社を媒介契約の相手に選びました。
ただ、売却活動を始める決断をしたとはいえ、不安が消えたわけではありません。
「この家、売れるのかな…」という気持ちは常に心のどこかにありました。特に、内見希望の連絡がまったく来なかった最初の数日間は、毎日のようにスマホを確認しては、メールボックスを開いて、ため息をつく──そんな日々が続きました。
売却に踏み切るまでも大変ですが、実際に売却活動を始めてからも、気持ちは常に揺れ動いていました。
「売れるかもしれない」という希望と、「やっぱり無理かもしれない」という不安。このふたつの感情のあいだで心が行ったり来たりしながら、それでも一歩ずつ、前に進んでいくしかありませんでした。